Share

コタエルコラム

#信託型ストックオプション

#税制適格ストックオプション

株価算定・オプション価値算定

2023.03.28

ベンチャー企業のファイナンスにおいて、株価やオプション価値に対しての正しい知識は欠かせません。

非上場企業の場合、ビジネスの世界で使われる株価(時価)といっても、上場企業における取引所の価格のようなものがありませんから、皆、ある程度確からしい算定方法で時価を算定します。
例えば、①過去の取引事例における株価(第三者取引価格)もあれば、②上場している類似企業の時価と比較した価格、③将来キャッシュフローの現在価値を算定するDCF法に基づく価格等もあります。
また、いわゆる時価とは異なりますが、税務の観点から、(脱税を防ぎ、納税者ごとの公平を確保する観点から定められた)財産評価基本通達に基づく評価額も株価と言われる場合があります。
 
2023年、国税庁より「ストックオプションに対する課税(Q&A)」とともに財産評価基本通達の改正についての公表があり、いわゆる「特例方式」という税務上の株価の算定方法が認められることとなりました。
これは、特例方式が認められる以前、税制適格ストックオプションの要件の一つとして定められていた「ストックオプションの権利行使価額が株価以上であること」という要件(いわゆる権利行使価額要件)における「株価」というのが、いわゆる時価なのか、税務上の評価額で良いのかが明確でなく、これが税制適格ストックオプションの導入の妨げになっているという指摘に対応しつつ、みなし清算条項が付いた優先株式を発行した場合に、どのように普通株式の価格を算定するのか不明であった点等をクリアにしたものになります。
その結果、税制適格ストックオプションの権利行使価額要件に定められた「株価」は税務上の評価額で良いということが明らかになり、実務的に税制適格ストックオプションは導入しやすくなったと言えます。
 
税制適格ストックオプションの導入に際しては、直接発行型・信託型にかかわらず、①時価 と ②税務上の評価額 の両方を把握しておく必要があります。
すなわち、直接発行型の税制適格ストックオプションの場合には、①時価を権利行使価額とするか、②税務上の評価額を権利行使価額とするか を選択しなければならず、②税務上の評価額 で時価よりも安い権利行使価額を設定する場合には、時価との差額について「株式報酬費用」の計上が必要になってきます。
これは本来の時価よりも安い権利行使価額のストックオプションの場合、その安い部分は役職員に付与した時点で役職員が報酬としてもらった扱いにすべき、ということからです。
したがって、直接発行型の税制適格ストックオプションは、発行する都度 ①時価 と ②税務上の評価額 を算定することになるのが原則です。
 
これに対して、信託型の税制適格ストックオプションの場合には、導入時に時価のある新株予約権を発行することになりますので、発行時にストックオプションのオプション価値の時価算定(その前提として株式の時価算定も)が必要になります。
また、受益者指定をする際に税制適格要件を満たしていることが条件になりますので、受益者指定の都度税務上の評価額を算定する必要があるということになります。
 
信託型の税制適格ストックオプションは、導入時にオプションの時価算定必須となりますが、その後は株価算定の必要がなく、受益者指定をしたいタイミングで税務上の評価額を算定するだけで済むという点では、直接発行型の税制適格ストックオプションに比べ手間が少ないものと考えられます。
 
いずれにせよ、税制適格ストックオプションは「常に税務上の評価額を意識しながら交付していくもの」と考えていただくと良いかと思います。
 
なお、信託型ストックオプション導入に際しての株価算定・オプション価値算定に関しては当社の業務ではありませんが、当社が信託の引受けを審査する際には極めて重要な検討要素となります。
したがって、当社では受け入れ可能な株価算定機関・オプション価値算定機関を限定しておりますので、信託型ストックオプションの導入にあたっては、まずは当社にご連絡いただきますようお願いいたします。
 
また、信託型ストックオプションに関係する価値算定業務を提供される第三者算定機関の方々には、以下のような要件を満たしていただく必要があると考えております。
 

  1. 株価算定機関またはオプション価値算定機関において、信託の知識を有する者が数名在籍していること
  2. 当該算定業務に関する実績(特に非上場会社での実績)が豊富であること
  3. 当該算定業務を適正に行うに足りる組織的・システム的基盤を持つこと
  4. 信託税制やエクイティ関連の上場審査実務・監査法人対応に詳しく、上場企業への導入事例や導入企業の上場事例が豊富にあること
  5. 税務申告や裁判事例等で当該算定機関の算定手法が正しいことが客観的に十分に認められていること
  6. 信託型ストックオプションのコンセプトやお客様への提案方針を十分に理解して頂いていること

 
なお、上記のような選定基準を設定した理由を簡単に列記いたします。
 
第一に、信託型ストックオプションには会社法、金融商品取引法、信託法、信託業法、法人税法、所得税法、相続税法等、様々な法律が絡んでおります。
 
また、上場審査だけを捉えても

  1. 主幹事証券からの質問対応
  2. 監査法人の算定書検証への対応
  3. 専門家による意見書

が必要になる上、適宜有価証券届出書に関するコメント等もしていただくことが求められます。
 
受託者としての当社が信託業法において認められている業務は、

  1. 新株予約権の管理
  2. 税務申告
  3. 交付ガイドラインのドキュメンテーションの支援
  4. 新株予約権の交付に係る手続の支援

等ということになりますので、それ以外の新株予約権の設計・算定業務は算定機関の皆様にお任せせざるを得ません。
 
信託型ストックオプションでは、新株予約権が適正な価格で発行される「時価発行」であることが極めて重要で、これが立証できない場合には、受益者や発行会社において多大なリスクを負う可能性があります。そのため、我々としても十分に信頼できる算定書が無い状況下では新株予約権の受託を行うことは出来ません。
 
第二に、当社は裁判の実績に特に注目しています。
算定書の作成を行うコンサルティング会社はたくさんあり、実績が豊富なところも数多くあります。しかしながら、結局のところ問題というのは後から発生することもあり、当社としても業務の範囲外である価値算定について、どの算定書が正しいのかを判別をするのは困難です。
 
そこで当社としては、多くの事例において監査法人の厳しいチェックを通過している、相手方のある裁判の場で相手方からの反論にも拘わらず正当であると認められている、といった実績をもとに算定機関の適切性を判断せざるを得ません。
また、裁判になった途端「裁判対応は出来ません」と言って連絡が取れなくなる、「担当者が辞めたので分かりません」と言う、そんな算定機関も過去に存在していました。
 
当社が長い年月をかけてお客様に寄り添い、信託業務の責任を果たそうとしている中、新株予約権の設計という車の片輪がいつの間にか外れてしまうと、いざというときにお客様の期待に応えることも困難になってしまいます。
当社は新株予約権の設計に関与・干渉する訳ではありませんが、このような事情から、当社の関与した信託案件においてこのような被害事案が出ることを防ぐため、算定機関の選定については極力、安定性重視で判断を行いたいと考えております。

類似商品の勧誘に
ご注意ください。

昨今、当社の提供する信託型ストックオプション「時価発行新株予約権信託®」に類似する商品の導入を勧める業者・専門家が増えております。信託型ストックオプションであるオプションプール信託®や時価発行新株予約権信託®、1円ストックオプション信託®のほか、有償ストックオプション信託®、譲渡予約権信託®、コール・オプション信託®は当社グループの登録商標であり許諾なく第三者が使用することはできません。
信託商品は、その設計により想定される結果が大きく異なる場合があります。類似の商品の提案を受けた場合や登録商標の商品を騙った勧誘を受けた場合には、法律上・税務上の課題がクリアされているかどうか、十分ご注意ください。